• naitou

「さよなら『blue moon skyline』」


先日のライブのことを、少し書く。


じっとしていても胸がざわざわしてしまうようなテレビのニュースが続く中、抜け出してライブに行かせてもらう。

どうしても行きたかったから。


どよんとしたニュースを忘れるようにして、町を少し歩いた。

10年ちょっと前のこの季節に、この町で、あの劇場あたりで、精神的にも肉体的にも死にかけたことなぞ、まるでなかったかのようにして歩いた。

その後の私の時間を、地道に未来へと刻んでいったのは、今そばにいるたいせつなひとや猫やあらゆることごと、その景色の中でいつも流れていたのはこの歌声。

のびやかな優しい、なにかを見透かしてゆくような歌声。

その日はどうしてもその歌声に会いたかった。


ライブハウスの客席は、テレビのニュースのせいかなにか、どことなくざわざわとした面持ちばかりだった。

ステージにあらわれた山田さんの姿は、いつもより光と影がにじんでいて、思い過ごしかもしれないけど、私たち以上の負荷が垣間見えた。


まず最初に、みなのこの「どよん」とした「ざわざわ」を、つくりたての新曲にかえて明るくおくりだしてくれた山田さんに感謝したい。

今日のステージをどうやって始めるんだろう…、とは、ちょっと思っていたから、なおさら。


その夜。

「音楽は魔法」だと、その場にいる全員がつよく思ったと思う。

決して華やかでも派手でもなく、でもちゃんととどくところで、私たちの胸に大切に響き続けていた音楽そして歌声。

もしかしたら、涙ぐんでいるひともいたかもしれない。

私は、泣いてしまわないようにすごく気をつけていた。

だって、もうだいじょうぶだからもう元気だから今は何の気なしにこの町の駅で降りてライブを楽しみにしてこの場にたちあうことだって全然できる。

この歌声に、にこにこしてきらきらして、たくさんの曲にたくさんの景色をのせて、しっかりと自力で「今」に立つことができている。

「音楽は魔法…?」そのとおりだ。

いつもとちがうベクトルで、でも全力で、その日山田さんが私たちにくれた音楽を、私はしっかりとはぐくんでゆく。

そこにあるのは、誰の上にも続くであろう優しいなんでもない日々。


10年ちょっと前、この町のあの劇場の制作スペースで、自分のPCにおとした「blue moon skyline」を、私はひとりで何度も何度も聴いていた。

くちびるをかんでぐったりしながら、激怒のあとに、やがてもはや泣くことすらもできなくなりつつ。


日々は続く。

歌声は続く。

私は猫の背で涙をふいて、猫の絵を描き続ける。

魔法はやまない。

音楽は続く。

あの歌声に在る景色をもっとずっと見ていたくて、

私はちょっと笑うそして猫の絵を描き続ける。

日々は続く。

音楽は続く。

音楽は魔法。