top of page
  • naitou

「Duke」


春の午後。

眠たいしちょっとくたびれてもいる、そんな時のことでした。

「♪ごゆっくりどうぞー」という声が

「♪デューク・エリントン」と聞こえました。



デューク・エリントン。

いや。…絶対違うのはわかってるんですけど。


でももうそれからは何度聞いても「ごゆっくりどうぞー」は、「デューク・エリントン」にしか聞こえなくなってきてね。

ひとりでだいぶ笑ってしまいました。

いい春ですね。

みなさんもぜひ、そっとつぶやいてみてくださいね。

ジャズのスタンダードナンバー『A列車で行こう』が聴こえてくるかもしれませんよ。



江國香織さんの短編で『デューク』という作品があります。(たぶん文庫本『つめたいよるに』収録)

初めてそれを読んだ頃は、まだ前の猫も若くて元気で、仕事もそこそこ順調で忙しい日々だったからか、素敵な短編だな、くらいにしか思っていなかったかもしれません。



前の猫が亡くなってしばらくして、もう気持ちがつらくて体調もずっと思わしくなくって冬で寒くてじっとしていた時、ふと『デューク』を思い出して、読みたくてたまらなくなったのでした。

その文庫本は家にはなく、よくよく思い出してみれば、昔ケガで入院した友人のお見舞いに行った時に私なにも持ってなくて、かばんの底を探してたまたま持っていたこの文庫本をあげてったんだっけ……

ということで、駅前の本屋さんに出かけて、ちょっとめくってみたならば、この短編のすべてを思い出していっぺんに前の猫のいろんなことがよみがえって涙がとまらなくなって、

「い…今はこの本は買えない…」と、買わずに帰ってきたのでした(後日ちゃんと買い直しました)。

その作品の感覚は全部もう覚えています。

それは、ともに暮らしていたちいさな生きもののことを思う時、誰もが願うこと、思うことなのかもしれません。


さっき、この文章を書いている左横ですやすやと眠る黒猫にそっと

「デューク・エリントン」

と、ささやいてみたら、しばらくして寝返りをうちながら

「えー今なんか言ったー…?」みたいなあくびして、またしっぽに顔をうずめてゆきました。

もうすぐ桜が咲くってよ、ネル。

bottom of page