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  • naitou

「あんねてのスープパスタ」


そんなわけで、お正月のほとんどを、ぎょっとするくらい寝込んでしまった私です。

たまに、おぼろげに目が覚めると、ネルがいつも枕もとで私の顔におしりをもたれて、すうすう眠っていました。

すうすうすう。


この秋からずっと、ものがたる詩と絵と音楽『リリカルキャラバン』ごらんになってくださったかたがた、どうもありがとうございます。

明日の朝に、最終話「weekend record」公開です。

8分くらいあるので、公開その時にでも、お時間ある時にでも、どうぞお楽しみください。

また、最終話もしくは全体のご感想などいただけましたら、嬉しく思います。


一度、起きている時に、濃いめの具だくさんのコンソメスープをたくさん作っておきました。

ずいぶんたって、また目が覚めた時、スープをあっためながら、パスタをぱきぱきと折り入れて、かんたんスープパスタにしたのでした。


もうずいぶん昔のことになります。

早稲田の小劇場、どらま館がまだ「早稲田銅羅魔館」という漢字表記の名前だった時代、私個人も、私の携わっていた劇団も、たいへんお世話になっていました。

泊まり込みで作業したり、朝まで飲んだり、仕込みだけで何日も使わせていただいたり。

当時、劇場の1階は「あんねて」という自家焙煎の珈琲店でした。

公演中、劇場ロビー兼劇場事務所兼厨房の2階で、「あんねて」のおねえさんが作ってくれたスープパスタ。

私は今でも時折、くたびれた時にそのスープパスタの真似をすることがあります。

一人暮らしを始めたばかりの当時の私には、きっとまぶしく見えたことでしょう。メニューにもない、ごくシンプルなそのあたたかみが。


その頃は、制作の私も役者陣もごっちゃになって、あらゆる作業を自分たちでこなしている時代だったので、だいたいいつもペンキを塗ったり何か縫ったりしていました。

楽屋の上、4階(5階とも思える構造でしたが)には焙煎所があって、そこから豆の袋を持った焙煎のおじさんが裏階段を降りてくるのによく出会うのですが、なにしろ作業ハイになっている私たちのことです、

「あのおじさん、ずっと階段を降りてくるばかりで、昇ってくるところ一度も見たことがないよね!」

誰かがそんなことを言い出して、はしゃいで笑ってほかのひとにそう伝えては笑って。

そんな日々、そんな公演、さぞ楽しかったことでしょう。

いつも作業着で、どこかにペンキがついてて、立て看板ばっかり作ってて。


あれからずいぶん、年をとりました。

二度と会いたくない人も、もうこの世にはいない人も、いつもかわらず優しい人も、全部まざっていた時代。

なつかしむいい記憶だけでなく、ちょっと書き起こせば、暗い土の上で大きな石をうらがえした時のように、できるだけ見たくないことも多々あることでしょう。

それでも私は、楽しかったこと大切なことは、ちゃんと描いておこうと思うのです。


その頃よりももう何年か昔かに、

とある演劇ワークショップで親しくなった、その大学の女性が学外の劇場で「あんねて」というタイトルで、ちいさな公演をうっていました。

「ぴあ」でその公演に気づいた私は、バイトを早退して池袋のちいさな劇場に出向いて、最終日にもぐりこみました。

何を話してもぴっと伝わる聡明で小柄な彼女のことが、私はとても好きでしたので。

それは、「あんねて」という喫茶店を舞台にした、ささやかなひとつの景色の作品で、その喫茶店で働く女の子の役名は「ナイトウリエコ」でした。

彼女は、今頃、どこでどうしているだろうと思うことがあります。


ではまた明日、たぶん早朝に。

おやすみなさい。

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