よみもの
詩や文章、以前の作品もふくめて気が向いた時に掲載します。
絵やマンガ作品は、ギャラリー(Instagram→@nekokage.n)にて多数ごらんいただけます。
(2026.3.24更新)

「ユートピアン」
水族館のある町に
住んでいたことがあってね
夜中によく自転車に乗って
夏の花火や
冬の流星群を
川岸まで見に行ってた
全部がぜんぶ
夢だったわけじゃ
なくってね
今はこうして
よく晴れた森で しあわせに暮らしていてね
だから もう 何ひとつ
思いだしたり
忘れたり
しなくてもいいんだと思う
音にならない音をたてて
回遊する魚たちなら
みな かんたんに知っているようなことを
ぼくらはまいにち
つきつめては てばなしてゆく
<詩画集「とてちてた」(七月堂)収録>

またね って、なにげなく言えるのは
なんてしあわせなことだろう
そのかすかな痛みを知っている人は
なんと優しいことだろう
どんなによるべなくても
それは光っていて
時々 じかに 胸をうつ
<映像作品「おおつごもりのピアノフォルテ」収録>

「おひさままち」
ここから先は ひとりでお行き
夜風の中にその声を聴いたとき
ぼくは それがぼくの道だと
痛いほど思い知っていたから
あのよのはてさえこえてゆくような銀河鉄道から ひとり降りて
このよのひかりに 生まれ直すことにした
泣くことも
ふりかえることも
心とだえることもあるだろう
それでもおまえは ひとりでお行き
泣いた ふりかえった 心とだえた
気持ちの折り合いなぞ 一生つくわけがない
それでもぼくは ただのぼくとして
この道を花道にと選んだのだ
きっと おそらく
いくたび生まれ変わることがあろうとも
ぼくは同じ夢を見るだろう
すべてはここからはじまるのです
これがおまえの道なのです
さあ お行きなさい
風に立とう
いつかは花も咲くだろう
空を見よう
青空にひらくひまわりのように
けだかくひかるおひさまを ぼくは待とう
<世田谷文学賞 詩部門佳作/
ほか、映像作品「おひさままち」収録>

「満月」
こうごうしい満月を
うっかり落として割ってしまったとたん
まっくらやみになりかねない
ぼくらの夜に
たどるは
ひとすじのかそけきメロディ
<詩画集「とてちてた」(七月堂)収録>
『星が居るひと』
猫のしっぽ、その先の骨は星のかたちをしている。
私はそんなことすら知らなかった。
先日、猫をみおくったひとと少しだけ話すことがあった。
ちいさな袋にしまって持ち歩いているという、しっぽの先の骨を見せてもらった。
その時初めて、それは星のかたちであることを耳にしたんだと思う。
「あ」
とてもまっしろでちいさくて、ひかっていた。
焼かれたあと、係の人が標本のように骨を並べてくれた話を聞きながら、
ものすごく近い指先に在るその星に、一瞬、手をのばそうかどうしようかと思った。
でもそれは、非常にだいじに在る星に失礼なことのような気がしてためらったとたん、あっさりとその瞬間は終わってしまった。
これまで、私にはそんな瞬間は何度もある。特に悔いるほどではなくても。
そのあとずっと何回も「…あの時、」と思い返すことができるから、それはそれでいいのかもしれないと思うこともある。
ずいぶん昔、私の前の猫が亡くなった時、火葬場で私は朦朧としていた。
泣きすぎたのか、焼かれている間はもう涙は出なかった。これまでの彼がいたたくさんの写真を見て、ちいさなエピソードをひとつひとつ胸にくりかえしてすごした。
前の猫にもきっと、星は在ったのだろう。もしかしたらそんな説明も聞いたのかもしれない。
あれから何年たっても思う。
きみは 私といてしあわせだったかい
あたりまえのように何もこたえないであろう前の猫を、ただ思う。
あのひとにはあのひとの猫が、このひとにはこのひとの猫が、今日もいる。
そっと光る星が、そばにいる。
じゃあそれでいいんだと思えるようになるのはきっとずいぶん後になってからで、私はそれまで何度でも、星を持つ指先の景色を思いだしてはその光りかたに涙ぐむのかもしれない。
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