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「うさぎ」

  • 執筆者の写真: naitou
    naitou
  • 7月18日
  • 読了時間: 2分

明け方、うさぎが誰かと喋っているのを見た。

子供の頃いつも私と一緒にすごしていた、うさぎのぬいぐるみが。

まるい目で空を見て部屋にころがったまま、私のことを誰かにとつとつと話している声が聞こえた。


 あの子ね ずっと そういう子だったの

 今も


うさぎは、あいかわらず可愛いかった。

ずいぶん汚れていて、耳も何度か千切れて縫い直してもらった気がする。

一緒にどぶに落ちて泣いたこともあったっけ。

そのうち私は大きくなって、ひとりでも外に出てお友達と遊んだりできるようになって、うさぎとは眠る時だけ一緒にすごしていた。


誰か。…って、誰だろう?

朝の暗がりでよく見えなかった。

うさぎはいっしょうけんめい、誰かに向かって話してくれていた。

動かない縫目だけの口もとで。


 そんなに なんでもできる子じゃあないの

 苦手なものすごくたくさんあるの

 だから ゆっくり自分の中にいることを大切にしようとしているだけなの


 わからないことはないの

 たぶん 全然 わかっているの

 こわいこと今までいっぱいあったから 

 これからもいっぱいあるんだろうなって思っちゃってるの

 

私は、その会話に入れなかった。

目を閉じて眠ったふりをしているうちに、また眠ってしまったのかもしれなかった。


できれば、それが、うさぎの発する最後の言葉なんかじゃなくて

これからも時々、いや、もう本当によくあるありふれた景色として

このうさぎが誰かや私と話し続けてくれることを今は願う。


。。。。。。。。。。。


〈ノートより/2026年春〉

 
 
 

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