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「猫を連れて、満月」

  • 執筆者の写真: naitou
    naitou
  • 9月16日
  • 読了時間: 3分
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私だってゆっくり朝寝坊したい日はあるのです。

そんなおり、ネルネルが私の布団に突進してきてにゃーにゃー言うのです。

「りえちゃんたら!もう学校始まっちゃう!ネル遅刻しちゃうよー!」

いや…きみは学校行ってないでしょう…

「ほらはやく起きてー!」

私の作業部屋の窓からは、近くの小学校に登校する小学生たちの列がよく見えるので、ネルは私と一緒にそれを眺めるのが大好きなのです。

…それはひとりで…見たらいいんじゃない…?

「りえちゃんたら、はやくー、一緒にみましょうよー!」

そうして私の安眠はさえぎられるのでした…。


今は画材を一新したくって、部屋にある在庫を確認中です。

夏の間はとにかくいろいろなことを吸収する時間にあてたかったから、なにかとそう仕向けていたし、興味はあってもあまり手をつけてこなかった作業もやってみたりしていました。

(別に夏の間、遊んでばかりいたわけじゃないのだけども!)

ここから、という明確な線引きはとくにないけれど、ゆっくり自分の中に降りてゆく時期がまた近づいて来たようです。

描きたいものがたくさん、自分の中で順番を待っているもよう。

またひとつ、いい季節になりますよう。


ずいぶんと昔、劇団の公演のことで、最初の発表からやむない大幅な変更事項があって、すでにチケットを購入していた方々にその旨お知らせのご連絡をした時のことです。

みなさまからいくつか、お返事やあたたかなメールをいただく中で、

「なんか…来てません?」

他のスタッフに言われてふと、ちょっと違う感じのメールに気づきました。

劇団の制作側から送った内容のことを、それを受けたチケット購入者が親しいお友達に伝えようとしたのをうっかり間違って劇団制作側におりかえし送ってしまったようなものでした。

それは、けっこうな、心ない言葉と内容でした。

ひとのみにくい素に触れてしまった気がしました。

そんなに、私たちの状況はおもしろかったですか?

すぐ後にメールの誤送信とその内容についてその方から謝りのメールも届きましたが、ただでさえ疲弊していた私や一緒に働いてくれていた制作チームの徒労感は静かに増してゆくばかりでした。

そんなことが果てしなく続く、暑い夏の日々でした。


そんな人ばかりじゃないし、そんなことばかりじゃないよ。

遠く離れて、そう思えるようになるまで、またずいぶん時間がかかりました。

つらかったことは、大切だったことさえも打ち消してしまう場合があるのを思い知りました。

応援してくださっていたたくさんの方々や言葉、私個人のそばにいてくれた友達。

あの頃の自分のすさまじい痛みの向こうに、今も見えるもの、もう見えなくなってしまったもの。

それが、私が現在描き続ける理由のひとつだと言ったとて、

私にできるのは、せめてちゃんと見送るくらいなのであって、

この世はたいして美しくはありません。

それでも。


猫を連れて満月を観に行ったら、

星と一緒に優しい歌が降ってきたので、

私はまた歩き出しています。


 
 
 

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