「記憶の記録5」


(順不同、日時不明)
◎月◎日
完全にトマト缶のつもりで元気よく缶詰をあけたら、桃缶だったので超ショック。
どうするのよもうパスタ茹で始めちゃったわよ。
桃パスタ…は、ちょっと違うと思う…。ああでも、レモンのパスタはおいしいしさわやかですよね。
◎月◎日
さっきからずっと「A列車で行こう」が流れてくる、夜の静かな図書館。
閉館時間だったかしら。
A列車、弾いたことも吹いたこともなかったと思います。
いろんなこと、中途半端にしか知らない自分をかえりみてじっと手を見る。
◎月◎日
すっかり秋になりました。
17年前の夏の話を少し書いておきます。
劇団の事務所にしていた部屋を引き払う時、まず関係者それぞれへの荷物や資料を入れる袋や箱を作った。それに次々と各自へと分けて整理していった。
長い年月ぶん、さすがにすべて網羅することはできなかったかもしれない。
それでも、ここに関わっていた人でここで預かっている資料については、今ここだけで終わらせてはならないと思っていたから、できるかぎりのことをつくして何ヶ月もかけてその作業をした。
プロフィール用の紙資料や写真や映像資料、サイズ表、ドラマや映画などの出演作資料、源泉徴収票、ボイスサンプル、雑誌の切り抜き。人によってまちまちなジャンルと内容。
取りに来てくれる人も、着払いで送ってくださいという人もいた。
劇団そのものにまつわる資料はすべて、劇団主宰の人の自宅に送った。大量の舞台写真。さまざまなかたに撮っていただいた写真(ボツやプライベート含む)。劇団の情報を掲載していただいた雑誌を長年切り抜いて綴じていたファイル。インタビューも。チラシやパンフや物販の在庫。
そして舞台映像資料はDVDに焼き直してきちんと整理してから、劇団主宰の人行きの荷物に全部入れた。事務所近くの商店街の写真屋さんで、何回かに分けて時間をかけて焼いてもらった長年の舞台映像。そのお使いに行ってくれてたのは最後まで事務所のデスクをつとめてくれたひとで、ある日「写真屋さんに、『今度観に行きます!』って言われちゃいましたー…」と言いながら帰ってきたので「うん、今度はもうないから今これ焼いてるんですとは言えないもんね!」とふたりで笑った。
最後に、パソコンからハードディスクをはずして丁寧にくるんで、それも宅急便で主宰の人の自宅に送った。劇団の公演資料も日々のあらゆる資料もすべて、そのハードディスクに記録しておいたから。他の誰が見てもわかりやすいようにして。
やがて処分業者さんが来て、事務机や棚、衣装ケース他なにもかもをものすごい勢いで運び出して行った。大きな音が続いたので、下の階の会社の人が「どうしたの!?」と慌てたようにかけあがってきたので、今までお世話になったご挨拶をしてすこしお話した。
パソコンを処分して、固定電話を解約して、おっとドアのガラスに貼っていた社名のロゴを剥がすの忘れてたねって急いでごりごり剥がしたりして、地下鉄の入り口でデスクの人ともちゃんと笑って別れた。


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